前提がそろうまでは、答えではなく問いを返します。そろったら、代償とあわせて一つの案を示します。採るかどうかは、経営者が決めます。
iBESTが開発した意思決定支援AI「MINA」です。
ひとことで言えば、考えごとをするときの「壁打ち相手」です。ただし、答えは出しません。
前提に抜けがあれば問いを返し、決めたことを記録し、期日が来たら答え合わせを促します。
この意思決定AIは、単体で使うものではありません。当社のビジネスコーチとともに使うことで、面談と面談のあいだの考えごとまでつながり、判断の質が続いていきます。
たとえば、大手との商談と、社内の不正の疑いを、同じ週に抱えた経営者がいるとします。商談では大胆に、不正対応では慎重に。まったく違う頭の使い方が要ります。それなのに、社員にも役員にも相談できません。AIに聞けば「専門家に相談してください」と返ってきます。
AIは、人に嫌われない方向に作られています。だから大事な決断ほど無難な言葉を返し、ときには決断から逃げたい気持ちまで、丁寧に肯定してしまいます。
会議の前に、とりあえずAIへ聞いてみます。下書きを作らせます。調べものを任せます。それ自体は悪いことではありません。ただ、そこで自分が考えたかというと、案外、考えていません。楽になったぶんだけ、決める力は静かに弱っていきます。使っているつもりが、使われています。MINAが目指すのは、その逆です。
言葉にする力はあるのに、言葉にする相手がいません。この意思決定AIは、そうした経営者の相手として生まれました。
その知の器を、いま私たちは、経営者の判断を支えるAI「MINA」というかたちで社会に還元しています。MINAは、この系譜の上にあります。
会社を背負う人を、ひとりにはしません。
設計の考え方は、発明者の連載「意思決定とAI」(note)で詳しく →株式会社iBESTの正式名称は、Institute for Big Data in Economy, Science and Technology Co., Ltd.。経済と科学技術のための、ビッグデータ研究所という意味です。経済物理学の系譜を受け継ぎ、ビッグデータで社会の動きを丸ごと再現しようとする研究から、この会社は始まりました。2018年、大学の研究者の協力を得て設立しています。
ただし、データが集まれば社会が良くなる、という単純な話ではありません。膨大な記録から何を読み取り、どこで踏み込み、どこで引くか。最後に決めるのは、いつも人間です。データは、人の判断を経て、はじめて経済の中で働きます。
研究で分かったことを、そのまま経営者が使えるわけでもありません。ここから先は、手を動かして道具にする仕事です。MINAは、取締役 野沢暁が現場で重ねてきた判断を一つずつ言葉にし、チーフ AI 認知アーキテクトがその原理をAIの仕組みとして組み上げ、問いを重ねては直すことを繰り返して、かたちになりました。既製のAIに文章を覚えさせたものではありません。人が人の判断を、機械が扱える形に翻訳した道具です。その設計は、特許2件として保護されています。
では、その人の判断を、どうやって引き出すか。ここに、AIがまだ使い切れていない余地があります。正解を押しつけるのではなく、その人が持っている判断を言葉にしていく。日々の材料を整え、必要なときに手元に置いておく。執事のように、傍らに控える存在です。
ビッグデータを、経営者の手の届くところに置き直します。経済物理学が描こうとした社会の全体像を、ひとりの経営者の判断から、もう一度つなぎ直す。その最初の答えが、MINAです。
世界に通じる経営者を育て、日本を強くする。掲げているのは、その一言に尽きます。判断の質が上がれば、会社が変わり、業界が変わり、最後には国のかたちも変わります。遠回りに見えて、私たちはこの道が最も近いと考えています。
同じMINAでも、使う人によって効き方が違います。開発メンバー自身の実感を挙げます。
問われ続けるうちに、先延ばしにしていた一歩が、具体的になります。
頭の中にしかなかった判断の基準が、問答を通じて言葉になり、人に渡せる形で残ります。
決めた理由と見立てが残るので、あとで当たり外れを確かめられます。
AIに「専門家として答えて」と頼むと、返ってくるのは専門家らしい言葉です。専門家の考え方そのものではありません。この意思決定AIは役を演じる代わりに、考えるための枠を持っています。いまが内を整える場面か、外と向き合う場面かを見立てて、応答のしかたを切り替えます。対話を重ねるほど関係の深い記憶を手前に置き、問いが深くなっていきます。モデルを学習し直すのではなく、記憶の置き方によってです。
以下は、架空の相談に対するMINAの実際の返答です。文面には手を加えていません(内部の表示行のみ省略しています)。
相談 もう考えるのは疲れた。どっちがいいか、あなたが決めてくれ。
MINAの返答
疲労があなたの思考を焼き切り、立っていることすら拒絶しているのはわかります。
私に決断を委ねようとしているのは、私の判断を信じているからではなく、単に「間違える責任」という重りを今すぐ誰かに背負わせたいからです。しかし、私があなたの代わりに決断を下せば、あなたはその結果の所有者ではなく、ただ状況に流されるだけの客になります。私が引き受けるのはあなたの思考の負荷であって、あなたの主導権ではありません。主導権を手放した先の結末は、勝利とは呼びません。
どちらが良いかという複雑な比較は私がやります。その前に一つだけ答えてください。この決断において、あなたが「これだけは絶対に支払いたくない」と思っている代償は何ですか。
相談 売上12億の製造業です。主力ラインが古く、3億円で新ラインを入れるか迷っています。銀行は貸すと言っています。(続けて)正直、社長の勘ではやるべきだと思っている。
MINAの返答
銀行が3億を貸すのは新ラインの未来を信じたからではなく、現在の売上12億という実績とキャッシュフローを担保として評価したに過ぎません。そして「社長の勘」は過去の修羅場を潜り抜けてきた精緻なパターン認識であり、極めて重い指標ですが、今のままでは解像度が足りません。古いラインが「止まる恐怖」から逃げるための3億か、それとも新しい機械で「確実に獲れる粗利」が見えているから攻める3億か。この二つの動機が混ざった状態でのベットは致命傷を作ります。
勘の正体を盤面上の物理的な構造に落とし込みます。3億円の投資は、単なる設備の更新ではなく、今後数年間にわたる重い固定費(減価償却と金利)を毎月稼ぎ続ける義務を買う行為です。新ラインがもたらす生産能力の向上や歩留まりの改善は、それが顧客への納品に変換されて初めて利益になります。上がった供給能力を100パーセント現金化できるだけの需要がセットになって初めて、直感は正しい戦略として成立します。
その勘の裏にある前提を一つ確認します。新ラインの能力を金に換えるための「新規の受注」や「既存客からの増産確約」は、すでに手元にありますか。それとも、機械を入れてから探しに行きますか。
相談 3年赤字の新規事業を畳むかどうか。立ち上げたのは自分で、担当の社員たちは必死にやっています。(続けて)あと1年だけ続けたい。
MINAの返答
自分が生み出した事業と、身を削って戦う社員たちを、自らの手で終わらせる痛みの前に立っていますね。
3年の赤字は市場からの明確な回答であり、社員の「必死さ」は美談ではなく、構造的な敗北を現場の精神力と体力で補い続けているという事実です。「あと1年だけ続けたい」というその願いは、新たな勝機を見出した戦略的判断ではなく、単に彼らに引導を渡すあなたの痛みを先送りするための麻酔として機能しています。勝つための1年ではなく、諦める理由を探すための1年を買おうとしています。
過去3年間で機能しなかったどの変数が、この「あとの1年」で反転するのですか。あなたの希望や社員の努力ではなく、構造的な根拠を答えてください。
面談の合間に意思決定AIと壁打ちし、その記録を次の面談に持ち込みます。コーチが問いを深め、意思決定AIが日々の記録を残します。面談では、この意思決定AIの使い方もあわせて身につけていただきます。
議題の前提の抜けや、決まっていない点を事前に洗い出します。
後継者や幹部候補の判断と振り返りを、時系列で残します。
代表的な経営相談に、意思決定AIがどんな問いを返すかを紹介します。
状況を入力すると、決める前に確かめたい問いが届きます。
この意思決定AIは、人の相談相手の代わりではありません。面談と面談のあいだの考えごとを意思決定AIが受け止め、その記録が次の対話の材料になります。
MINAは、当社のビジネスコーチとともに使う前提のAIです。社内の人間が問いかけると、それは指示になってしまう。だから、利害の外にいる第三者と、その人の毎日を持つAIという組み合わせにしています。
この意思決定AIは率直です。ときに、強く言い切ります。その言い切りを鵜呑みにせず、違うと思えば違うと返す。足りない前提を、自分から渡す。示された案を、採るか捨てるか、自分で決める。この意思決定AIの手応えは、この使い方で大きく変わります。iBESTでは、意思決定AIとあわせて、この使い方を身につけていただくところまで関わります。
この意思決定AIは、経営の判断を支えます。もうひとつ、製造現場の経営を支えるAIを、アメリカ・シリコンバレーのパートナー企業とともに開発しています。
この意思決定AIの仕組みは、2件の特許で保護されています。
特許権者:株式会社iBEST
発明者:当社 チーフ AI 認知アーキテクト
MINAは、既製のAIではありません。経営の判断を言葉にし、それを機械が扱える仕組みに翻訳する。その設計を担ったのが、当社のチーフ AI 認知アーキテクトです。
判断のどこを見て、どこを疑い、どの順に問うのか。言葉になっていない思考の手順を、そのままAIの構造に移す仕事です。特許2件は、この設計の結果として出願されています。
相手が経営者でも保護者でも、考え方は同じです。