経済と金融と物理と:その2

前のブログでは、物理学者の私がなぜ経済・金融の研究をしているかについて述べた。今回はそのきっかけについて書いてみよう。
2000 年ころのある日、私は秋葉原の電気屋街を歩いていて、おもしろそうなデータCD をつ
けた。それには「高額納税者公示制度」(2005 年に廃止)により公示された、前年に所得税を1,000万円以上収めた人達約8 万4 千人の住所・氏名のリストが載っていた。
当時、興隆つつあった経済物理学(Econophysics) について聞きかじっていた私は、イタリアの
経済学者Vilfredo Pareto (1848 { 1923) が見出していた個人所得や資産のべき分布についてっていた。また、その現代版とも言える企業の資産、従業因数なども同様にべき乗則にしたがうことも知っていた。そこで私はそのCD をポケットマネー(確か2 万円もしなかった)で購入し、データの分布を調べてみた。
その最初の結果が下の図である。この図中の1点は一人を表す。ずっと線が連なっているように見えるのは、このデータにある8万人がきれいに並んでいるからだ。この図の横軸はその人の所得税、縦軸はその人の所得税金額の順位だ。つまり1 番右下に居る人が第1 位でこの年に1 番多く所得税が払った人である。そしてその左上に第2 位とずっと続いていく。両軸のスケールは対数なので(「対数」がピンと来ない人はここを気にせずに読み進みましょう)、この直線的並びは所得税の分布が金額の多いところでべき乗則にしたがっていることを意味する。

これらの人々は所得税(所得ではない)を1,000 万円以上も払ったのだから、大変なお金持ちである。その中には野球選手、歌手、俳優、企業の社長、重役、地主、たまたまこの年に幸運だった人、などなど、、実に多種多様な構成だ。想像をたくましく、8 万人もの人が、ある人は球団の制服を着てバットを持ち、ある人はきらびやかな舞台衣装でマイクを持ち、また誰だか分からない紳士が仕立てのよいスーツ姿で、きれいに一直線に並んでいる姿を思い描いてみてほしい。実に不思議な光景だ。
「これには何かある!」と思ったのが、私の経済研究の始点というわけだ。